マッチレポート
先週から始まったジャパンラグビートップリーグ2021プレーオフトーナメント。東大阪市花園ラグビー場では、トップチャレンジリーグ勢で唯一、先週トップリーグ勢の宗像サニックスブルースを破って一回戦を突破した近鉄ライナーズと、リーグ戦ホワイトカンファレンスを6勝1分けの首位で勝ち抜いたパナソニックワイルドナイツとの一戦となった。
強豪、パナソニックに対するチャレンジャーの近鉄は、オーストラリア代表ハーフ団の一人であるSHウィル・ゲニアの負傷欠場と先週の一回戦での危険なプレーに対してレッドカードが付与され6試合の出場停止処分となったペネトレータのNo.8ロロ・ファカオシレアの出場停止がどこまで響くか。試合は、緊急事態宣言の発令に伴い一時は無観客も想定されたが、地元の古豪・近鉄の凱旋マッチで各国代表を数多く擁するパナソニックとの顔合わせだけに4,000人近くのラグビーファンが駆けつけ、パナソニックSO⑩松田力也のキックオフで開始された。
序盤からチャレンジャーの近鉄は積極的にアタックを繰り返し、SO⑩クウェイド・クーパーの巧みなボールさばきや1月の天理大学日本一の立役者であるルーキーCTB⑬シオサイア・フィフィタ、FB⑮セミシ・マシレワの突破で再三パナソニック陣に攻め込むが、そこは王者パナソニックも落ち着いて受けて立つ。一進一退の攻防が続く中、均衡を破ったのは近鉄。16分に10mL付近の密集からFB⑮マシレワが右サイドを大きくゲイン、最後はWTB⑭ジョシュア・ノーラが右中間に抑えて7-0と先制した。
しかしここからじわじわとパナソニックが近鉄サイドに攻め込む。28分にFW・BK一体となった連続攻撃からディフェンスラインを突破したCTB⑫ハドレー・パークスからのパスを大外で受けたゲームキャプテンNo.8⑧ジャック・コーネルセンが右隅にトライ、SO⑩松田が難しい角度のゴールも決め7-7として前半を終えた。得点からみれば近鉄の善戦とは言えるが、スクラムでかなり激しくパナソニックのプレッシャーを受けたこと、強い北風の風上に立った近鉄が有効にキックを使えていないことが気がかりであった。
後半に入ると風上に立ったパナソニックが徐々に底力を発揮する。4分にゴール直前でイングランド代表LO⑤ジョージ・クルーズがキックチャージ、再びNo.8⑧コーネルセンが押さえて7-12とあっさり逆転。その後は風上を利したSO⑩松田のロングPGなどで着実に加点する。11分にHO⑯堀江翔太ら代表勢や若手5人を同時に投入、疲れの見えた近鉄に対してブレイクダウンなどで圧倒。さらに今シーズンで引退を表明しているWTB⑪福岡堅樹の終了間際の連続トライなどで、最終的には7-54の大差で準々決勝進出を決めた。
トップ8進出を目標に掲げていた近鉄は、やはり格上のパナソニックに対して先手を奪いきれなかったことが敗因、トップチャレンジリーグ勢の最後の砦が崩れ落ちた。一方のパナソニックは前半こそリードは奪えなかったがやはり横綱相撲、2週間後の準々決勝ではキヤノンイーグルスとの対戦が決まった。
記者会見レポート
近鉄ライナーズ
有水剛志 ヘッドコーチ(HC)
協会、パナソニック、レフリーの方々、ありがとうございました。シーズンスタート時にトップ8を目指してこのチームは始まったが、きょうのゲームに勝つことで今シーズンの評価が問われた。前半は自分たちのスタイルを出してトップチームのパナソニックと勝負できるゲーム展開に持ち込めたが、後半の途中からパナソニックのプレーの厳しさに自分たちのスタイルが徐々に出せなくなった。最後はああいう形のゲームになってしまった。トップチームとの差を感じたとともに、ここがライナーズが次のステージに行けるかどうかの分かれ目になるのではないかという印象だ。
マイケル・ストーバーク ゲームキャプテン(GC)
レフリー、マッチオフィシャルの皆さまに感謝する。パナソニック、素晴らしい試合をありがとうございます。勝利、おめでとうございます。自分たちの目標だったトップ8を達成できなかったことは寂しい気持ちだ。前半、情熱をかけていい形で試合を進めたが、トップレベルの相手に勝つためには情熱だけではなく、しっかりスキル、規範を伴ったラグビーをしないといけないと感じていて、ヘッドコーチ、チームメイトにも伝えた。前半はフィジカルをしっかり100%出せ、タフなディフェンスでタイトな試合ができた。後半は自分たちのプレーに対する厳しさを40分間保つことができなかった。今後、それぞれの分野で厳しい選択をしてしっかり楽しむラグビーをできることができれば将来のトップ8は無理ではないと感じた。未来は明るい気持ちがある。
シオサイア・フィフィタ選手
前半はパナソニックの強いアタック、プレッシャーに対していいラグビーができた。後半は僕らのラグビーができず、そのままパナソニックのペースになってしまった。結果は負けたがいい経験になった。
Q:「挑戦」という意味合いではきょうの試合はどうだったか
フィフィタ選手
ボールを持った時はしっかりゲインラインを突破することをこの1週間の自分の目標にしてきた。アタックでは何回かいいプレーがあったがもっとできたのではないかと思う。
Q:日本代表を目指す上で今後どう成長していきたいか
フィフィタ選手
ディフェンスでのコミュニケーションが大切で、しっかりコミュニケーションをとれれば問題ない。
Q:ホーム花園で観客の前でのプレーできたことの感想は
フィフィタ選手
結果は負けてしまったがファンの皆さんの前でプレーできたことに感謝している。次のシーズンに向けてファンの前でいいプレーができるようにこれから頑張っていきたい。
Q:どんなプランニングで試合に臨んだか
有水HC
ゲームとして、前半でもう少しリードして終わりたかった。風上だったし自分たちの流れで戦うことができていた。格上に勝つ展開とすればラスト10分まで僅差でもつれたゲームで最後は自分たちの形で逃げ切るか、取り切って逆転するかといったゲーム展開をイメージして臨んだ。前半リードできなかった、後半は先にスコアできなかったところがこういったゲーム展開になってしまった。
Q:FWは負けていなかった場面も多かったが手ごたえは
ストーバークGC
ディフェンスのテーマは「自分たちの城を守れ」。花園は近鉄ラグビーの城であると自分の心に刻んでいる。真田幸村が命を懸け大阪城を守ったように、自分たちFWも相手のどのような攻撃でも守り抜かなければならない。この試合に向けてFWとしては体を張って絶対トライを許さないという強い気持ちで臨み、ゴール前のトライを許さなかった。
Q:これだけのファンの前で試合ができた感想は
有水HC
選手、スタッフもぎりぎりのところまで有観客でゲームができるのかどうか、気にしながら協会からのアナウンスを待っていた。有観客で自分たちのホームでファンの前でトップ8を決める大事なゲームができるということでモチベーションにつながった。3,989人もファンの方々がきていただき、後半途中までは自分たちのスタイルが出せたが最後はああいう形になり申し訳ない。
ストーバークGC
近鉄サポーターの皆さんは特別の存在でその通りだと思う。サポートは情熱的で原動力、エネルギーになることも多く、感謝の気持ちでありがたい。前半のいいパフォーマンスができたところはよかったが、80分間このレベルを保てなかったのは課題で、ファンのためにもっといいパフォーマンスができるよう頑張りたい。
フィフィタ選手
何があっても仕方がないことだが、自分のラグビー、ライナーズのラグビーにフォーカスして、ファンの前でプレーできたことに感謝する。
Q:足りなかった部分は。どうしていこうと思うか
フィフィタ選手
アタックはいい感じのところもあったが、ミスも多くあった。ディフェンスではコミュニケーションが取れてないところがあった。これから練習して成長していきたい。
パナソニック ワイルドナイツ
相馬朋和コーチ
ゲーム開催に尽力していただいた皆様に感謝を伝えたい。
ジャック・コーネルセン ゲームキャプテン(GC)
立ち上がりから勢いのある近鉄のアタックにプレッシャーを感じる場面があった。後半は風上に立ち、テリトリーを上手に生かしながら、徐々に自分たちのラグビーができるようになった。特に後半20分からディフェンスが機能しだして自分たちのラグビーをして試合を終えることができた。
Q:前半をどうとらえているか
相馬コーチ
近鉄は勢いをもってせめて攻めてくるチームで、準備の最初から話していたが、予想通り激しくエネルギーをもって臨んできた。
コーネルセンGC
前半は自陣からの脱出でプレッシャーを感じることが多かった。近鉄の充実した勢いのあるアタックで自陣で過ごす時間が長く、難しい前半になった。
Q:苦しい前半はどのような声をかけたか。
コーネルセンGC
自分だけでなくアタック、ディフェンスの経験値の高いリーダーが立ち上がって必要なところで適切なアドバイスを送ってくれた。私のチームのパフォーマンスを助けてくれた。
Q:日本代表候補への意気込みは。
コーネルセンGC
今年のシーズンに向け大きな目標で、選ばれたことを誇りに思う。代表までまだ人数は絞られるし、トップリーグもまだ3試合ある。目の前の3試合をしっかり戦って、ベストのパフォーマンスを発揮することで最終スコッドに選ばれるよう全力を尽くす。
Q:前半は奪われたのが1トライで、ディフェンスの何がよかったか
コーネルセンGC
近鉄の素晴らしい攻撃で自陣で苦しい時間を過ごしたが、我々のディフェンスが機能した。準々決勝に向け改善すべき課題があり、改善してよいディフェンスができるようチームとして頑張りたい。自分たちのディフェンスに自信を持っており、近鉄の力強いアタックでプレッシャーをかけてきたが、ディフェンスできたのはチームとしてうれしく思う。
Q:敵陣22mに入ったときに前半はFWでラックサイドを攻撃していたが、後半はボールを左右に動かしていたが。
コーネルセンGC
目の前の事象に対して最適なアタックを選んでいる。外にスペースがなければそこは使わないし、空けばボールを運ぶ。
Q:父親はオーストラリア代表だったが違う国の代表になることに迷いはなかったか
コーネルセンGC
特に迷いはなかった。父親は私が目指すものを応援してくれている。日本でプレーできることをうれしく思っており、父親が理解して応援してくれている。
福岡堅樹選手
前半は近鉄の勢いのあるアタックに苦しんだが、自信をもったディフェンスで1トライでしのぐことができたことが大きかった。風下で自分たちらしいアタックができず、しっかりディフェンスができた。ターンオーバーなどFWの体の張り方は頼りになった。後半はリザーブの選手が影響を与えてくれる。
小山大輝選手
前半は厳しい戦いだったが、リザーブのメンバーたちでベンチで勢いを与えていこうと話していたので後半はいい形になった。
Q:コンディションと日本代表候補への意気込みは
小山選手
体調はすごくいい。いいチャレンジ機会をもらったのでしっかり結果を残して代表を狙っていきたい。
Q:学業と練習との兼ね合いは
福岡選手
大学側とは話して、チームとして必要な練習には出られるように、単位の相談など教授に理解してもらっている。課題や出席できない部分の勉強は自分でカバーしないといけないが、練習時間は確保できている。
Q:多くてあと3試合でラグビー人生が終わるが
福岡選手
何も変わらない。目の前の一戦一戦に常に100%で臨み、その結果がついてくるだけ。へんに焦りもなく、一戦一戦その瞬間瞬間を楽しんで、自分らしいプレーが見せられれば、それが自分のラグビー人生だと思う。
Q:ベンチではどんな話をしていたか。どんなプレーを心がけようとしたか
小山選手
相手にブレークダウンでプレッシャーをかけられ、テンポがスローになっていたので上げていこうと話し合っていた。
Q:どういう風にテンポを上げていこうとしたか
小山選手
ラックでの球出しやリズムをつくるようにした。
Q:トライ数で爪痕を残して終えたいか
福岡選手
トライの数にはこだわっていないし、チームが勝てれば、その中で自分らしいプレーが出せればいい。結果としてトライ数で1番だったらうれしい気持ちはあるが、自分のプレーから生まれたトライも自分のトライのように喜びたい。
(文責:大阪府協会 石川 悟、丸井康充)
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