医務委員会・安全対策委員会 意見交換会「熱中症を語る!!」

関西ラグビーフットボール協会医務委員会・安全対策委員会意見交換会

「熱中症を語る!!」

平成 28年4月21日 関西協会事務所において

出席者 

笠次 良爾 奈良教育大学教育学部教授・(公社)日本トライアスロン連合メディカル委員会委員長
外山 幸正 関西ラグビー協会医務委員会委員長
佐光 義昭 関西ラグビー協会安全対策委員会委員長・大阪府立布施工科高校ラグビー部顧問
高折 和男 関西ラグビー協会医務委員会総務部会長
中村夫左央 関西ラグビー協会医務委員会学術部会長・大阪府協会安全対策委員会委員長
新井 達也 関西ラグビー協会医務委員会総務部・大阪府ラグビー協会医務委員長長

平成28年4月21日(木)関西ラグビーフットボール協会に於いて、医務委員会・安全対策委員会による「熱中症」に関する意見交換会を実施しましたので、報告いたします。

外山氏:
 今年は急冷、急暖の不順の気候で、今夏は例年よりも暑いことが予想されています。この会も関西協会エリアで、2010・2011年と2年続いて、中・高校生の熱中症による死亡事故が発生した事に始まり、今年で5回目となりますが「熱中症に関する意見交換会」以後、熱中症が発生しておりません。今年もゼロを目指したいと考え皆様に集まっていただきました。活発な意見交流をお願いしたいと思います。

 座談会用資料として、笠次先生が取材を受けて掲載された雑誌の記事と、木更津の大会パンフレットに笠次先生のコメントが掲載されたものを添付しています。トライアスロンの競技団体としては、熱中症対策は以下の通り示しております。

http://www.jtu.or.jp/news/2013/130613-2.html

外山 幸正 関西ラグビー協会医務委員会委員長

外山 幸正
関西ラグビー協会医務委員会委員長

佐光氏:
 皆さんが集まるまで、トライアスロンでの重症事故について聞かせて下さい。

佐光 義昭 関西ラグビー協会安全対策委員会委員長・大阪府立布施工科高校ラグビー部顧問

佐光 義昭
関西ラグビー協会安全対策委員会委員長・大阪府立布施工科高校ラグビー部顧問

笠次氏:
 トライアスロンにおける死亡事故は水泳中が一番多い。溺水が多いが、初心者だけでなく経験者も溺れている。おそらく、マラソンなど陸上で起きるイベントが水の中で起きているのではないかと思われる。

マラソンは海外では救命率が低く、アメリカで3割くらい。一方、日本では陸連公認のマラソン大会で、ここ直近の2012~2015年で20数例心停止があり、そのうち、残念ながら亡くなってしまったのは1例だけとなり、ものすごく高い比率で救命されています。

 これはマラソン大会におけるAEDチームの普及が大きい。わが国における突然死は年間約5万人、このうち心臓由来が約6割といわれている。心停止の多くの原因は心室細動ですが、中高年になると虚血性心疾患、生活習慣病由来の冠動脈狭窄、血流不全があって、そこに運動負荷や脱水などの負荷がかかると心室細動を起こしやすい。これは心臓由来の突然死の7~8割を占めている。年間5万人の突然死のうち2万数千人が、心室細動で亡くなっていることになるが、心室細動をレスキュー出来るのは唯一AEDだけです。このAEDが普及して一般の人が使えるようになったのは平成16年から、いわゆる医療従事者でなくても一般の人が使ってもいいと法的に認められた。そこから学校の管理下の死亡も確実に減っています。

笠次 良爾 奈良教育大学教育学部教授・(公社)日本トライアスロン連合メディカル委員会委員長

笠次 良爾
奈良教育大学教育学部教授・(公社)日本トライアスロン連合メディカル委員会委員長

佐光氏:
 我々もそうですよね。生徒の前でAEDの蓋を開け、絵の説明どおりにパッドを胸に貼り付けることを実際に生徒にやらせてスライドでも確認させている。大方の高校生はやり方を知っている。

笠次氏:
 AEDの普及は非常に大きい。それが今の国内のマラソン大会での良い現状に繋がっている。突然死については同じことが水泳中でも起きる可能性がある。トライアスロンはスイム(水泳)、バイク(自転車ロードレース)、ラン(長距離走)の3種目を連続して行う競技で、水泳に適した時期に競技を行うと、ランでは熱中症に注意が必要になる。ランに適した時期は秋以降だが、そうすると水温が低く寒いのでウエットスーツを着る。このウエットスーツがくせもので、ウエットスーツを着ると身体が浮いてしまうんです。そうすると保温というよりも競技能力を向上させる、スピード、エネルギーを使わずに浮くために着る。

したがって、暑い時期の水温が27~28度でもウエットスーツを着てスイムを行うことになる。水泳中は水分を摂れませんので、スタート前に水分をしっかり摂ろうとするんです。水分だけならまだしも、スタート直前まで食べている人がいる。食べ物の消化には2時間ぐらいかかるのに。胃の中にたくさん食べ物が入った状態で、水中に入ると水面と平行になり横隔膜が押される。なおかつ、水泳時は泳ぎながら胸郭を大きく広げるのは難しいので、胸式ではなくどちらかといえば腹式呼吸となる。そこに胃の中に食べ物がいっぱい入っていて、ウエットスーツを着ていると呼吸がしづらくなる。さらにウエットスーツの着方が悪いとゴムがつっぱりしんどくなり、サイズがちゃんと合っていないと、締め付けられて息できなくて死にそうになる。また、ウエットスーツは手入れが悪いと固くなるため、ウエットスーツはそのメリット・デメリットをしっかり理解して使う必要がある。

水泳中に生じた心停止への救命対応は難しい。マラソン中はAED等ですぐに対処できる。では水泳中にすぐにAEDを使えば助かるのか?ところがそうではない。体が濡れている海上ではAEDが使いにくい。一刻も早く陸上へ引き上げるのが重要である。ライフセーバーは危険性のある選手は目をつけているが、選手を引き留めてもどうしても行くと言い、動きが止まってすぐに助けても死ぬ場合がある。これが、剖検例がほとんどないので何が原因かわからない。死亡例はほとんどが海。プールと違ってレースは大人数が泳いでいる。当然監視員が必要。今までもライフセーバーに頼んでいたが、昨年死亡事例が多かったこともあり、今年からライフセーバー協会と競技団体がパートナーシップ協定を結んだ。

外山氏:
 こうなるとしっかりしたライフセーバーに頼まないと駄目ですね。

笠次氏:
 レスキュースレッドという大きなボードがあるのですが、そこに選手を乗せて引き揚げていくが、時間が勝負なので僕たちはジェットスキーが欲しい。AEDは海上では使用しにくいので、陸に上がったと同時にAEDを使い救命処置。海岸にドクターとナースが常に待機しており、最短距離のところには救急車を待機させている。最短の動線で、現場でやることは本当に必要なことに絞り、モタモタしない。救急車の中で処置しながら搬送する。監視船は、監視はできるが溺者を上げられない。溺者は本当に重く、海面とフラットでないと重くて上げられない。とても無理。実際問題、海では救助までに時間がかかる。スーツを脱がしてAEDが到着するまで胸骨圧迫、海の上では頭と冠動脈の血流確保がなかなかできない。やろうと思ってもなかなか出来ない。だからいかに早く上げられるかが勝負。理想的には、大会参加者はトライアスロンの2週間前に来させて泳がせ、慣らしてから大会に出場したらいい。しかしそれをすると参加者がぐっと減る。でも死亡者がでるよりはいい。

 スイムをオープンウォーターで行うある大会で、去年、初心者歓迎で募集をかけたところ200人くらい集まった。この中で初心者いますかと聞いたら多くの人が堂々と手を挙げた。今年は、前の年に1km以上オープンウォーターで泳いだことのある人でないと参加できませんとしたら、半分になった。死亡者がでるくらいならそのほうがいいと医師の立場では思うが、主催者はそうはいかない。

外山氏:
 そろそろメンバーも揃ってきたので熱中症の話題を。

新井氏:
 日本では運動指針がでている。WBGT(湿球黒球温度):Wet Bulb Globe Temperature)31度以上なら運動してはならないとか。この季節ならランを短くするとか、炎天下なら距離を短くするなど工夫はできないのか。それもしないで強行するのはどうか。

新井 達也関西ラグビー協会医務委員会総務部・大阪府ラグビー協会医務委員長長

新井 達也
関西ラグビー協会医務委員会総務部・大阪府ラグビー協会医務委員長長

笠次氏:  
 それは最近になり各競技団体で、IFレベルで出来てきている。ラグビーでもヒートガイドラインができている。トライアスロンも2013年、ロンドンオリンピックの次の年にガイドラインができた。欧米人は日本人に比べて暑さに弱いような印象がある。WBGTが28度以上でテクニカルデリゲート(技術代表)とメディカルデリゲート(医療代表)が相談して、まずブラックフラッグを上げ、今こういう気象状況ですと選手に伝える。そこから距離の短縮。水泳の場合も高水温、低水温で距離の短縮、状況を伝えるが、参加するかしないかは自己責任。今年の2月にアメリカで心臓外科医を呼んでシンポジウムを開いた。アメリカの考え方は、選手と主催者と競技団体それぞれで責任をシェアしよう。責任を分かち合うことで安全を築く。我々主催者、競技団体ばかりが責任を負うことはない。選手自身が安全を築く。競技団体が負うべき責任はルール作り。ルールで、この環境では開催できないだろう、というルールを作っておけば主催者も安心。熱中症でもそうだが、まず選手本人が自身の体を知っておくべきであり、今水分が不足しているとか、塩分が不足しているとか、自分で分かってコントロールする、これが一番なんです。ところが日本で起こっている熱中症はそこが不足している。

佐光氏:
 頑張りすぎて活動をやめられない。頑張りすぎる真面目な子が熱中症で亡くなっている。レギュラー争いをしている時に自分がここでリタイアしたらレギュラーになれないみたいな、真面目でサボれない、サボりたくない、あまり水も飲ますにギリギリまでやってパタッと息倒れるみたいなことがあった。

笠次氏:
 現場で押さえておくべきことは熱中症だけでない。ラグビーのトレーナーセミナーが福岡、大阪、東京などで行われている。今年もトレーナーの渡辺さんに頼まれて講師をやった。熱中症と突然死、ラグビー協会のホームページを見ていたら、結構、感染症について触れていたので、感染症に関してもトレーナーセミナーでやった。ラグビーは集団でやるスポーツなので、ノロとかインフルエンザなど感染症対策、対応は大切。感染症予防3原則、感染源、感染ルート、宿主の感受性、どれかをしっかり押さえたら大丈夫。年少者は宿主の感受性が高いからどうしても罹患しやすい。そうしたらいかに感染源を絶つか、感染ルートを絶つか。というのを教える。90分で内科エッセンスまで話しさらにドーピングの話までするのは、なかなかタイトであった。

佐光氏:
 花園の全国高校大会で、我々が困ったのは、第一グラウンドで選手がベンチで嘔吐した。それも人工芝ではなく天然芝。塩素系の強い消毒液を撒いて処理した。消毒は感染症に本当に大事。学校でも先生方に指導しており、集団感染を防ぐにはまず消毒。子供らにも吐物を見たら、すぐに離れなくてはいけないと教えないと。これはやばい、まずいという感覚、嗅覚が大切。これは競技団体うんぬんではなく、まず学校の保健でトコトンやりたい。指導者はせっかくここまで来たのだから大会に出場したいという気持ちがあるはず。でもこの状態では出られないという現実は、選手自身が一番よく分かっているはず。

熱中症でもそうだが、ライバルと競争している状態だと、その選手も監督にしんどいと言えない。当時は、ここまで詳しく選手に指導していなかった。しんどかったら言えよ、という程度。こちら側にも生徒を見ていたら状況はある程度わかるという過信もあった。一年生は心配でよく見ていたが三年生はよく見ていなかった。合宿とか練習とか2年間経験しているのだから大丈夫だろうと。一言、先生、しんどいから休ませてください、と言ってくれればあの事故は起こらなかった。でも、あの状況でよう言えなかった。熱中症の怖さに対してあまりにも無知だった。我慢が大事と思ってしまう。真面目でなおかつスポーツに真摯に取り組んでいる子は、これ以上は我慢してはいけないという限度を知らなければ我慢してしまう。今のこのしんどさは何からくるしんどさがわからない、自分の身体に何が起こっているのか分からないと怖い。

笠次氏:
 そう。スクワットを3000~5000回やって感じる「もうアカン」と熱中症の「もうアカン」は違う。自分の身体に今何が起こっているのかをちゃんと理解させないと。熱中症のもうアカンは本当にアカンので。

笠次氏:
 資料はOS-1。乳酸ナトリウムがクエン酸ナトリウムになり飲みやすくなった。走って疲れている時は美味しい。違和感がない。賞味期限が三か月長くなったのが本当にありがたい。次のシーズンまで使える。またクエン酸の方が持久系でもちやすい。今年から近畿地区の51.5km以上の大会前のレクチャーでワンポイントアドバイスとしてOS-1がいいと助言している。選手に一本ずつ配っている。競技中、汗をたくさんかいた時にこれで補うのはいいが、日常生活では塩分が多く飲んではいけない。ポカリスエットは500mlのボトルに塩が0.6g、塩タブレットにすると大凡1粒だが、OS-1はその約3倍、塩タブレット3つ入っている。トライアスロンでは自転車のパートでボトルを携帯し、走りながら補給できる。フレームにケージをつけて複数のボトルを携帯できる。トライアスロンで51.5kmの競技距離だと、自転車の距離は40km。制限時間が全部で4時間くらい。500mlと750mlのボトル。二本のボトルを10~15分おきに口にし、こまめに飲んでレースが終わるころに飲み切るが、飲み切らない選手が多い。僕がいいと思うのは、1本はOS-1でもう1本は水がいい。熱中症というのは身体の中に熱が溜まった状態。暑いときは身体の中と外、両方で熱い。運動すると筋肉で使うエネルギーの8割が熱になる。身体の中に溜まった熱をいかに効率よく外に出すか。伝導と、対流と輻射と蒸発、一番効率いいのが蒸発、身体にとっての一番のラジエターは皮膚。ラジエターを効率よくまわすには、皮膚の表面の血管を開いて血流をよくしないといけない。脱水症状になると、体の一番大事な臓器に血流をまわそうとして末梢の血流が不足する。すると皮膚のラジエターが正常に効果的にまわらなくなる。だから水分、塩分をしっかり摂って血管内のボリュームを確保し、血管を広げてあげてラジエターを働かせる。そのラジエターをさらに効率よく働かせるには水をかける。自転車だとペダリングしていて一番熱を持つのは大腿四頭筋とお尻。お尻には水をかけられないので大腿の前に水をかける。もちろん後頭部も呼吸中枢が冷えていいが、ランニング中で一番熱を発するのは大腿なので下肢に水をかける。水をかけると風もあり、衣服から熱を発散できる。だから1本はOS-1。もう1本は水。ランニングで走りながら水を飲むのはなかなか難しい。自転車の時にどれだけ水分補給できているか。ランでは帽子をかぶってどれだけ輻射熱を避けられるか。熱放散、蒸発しやすい服。色は黒よりは明るい色。白。なおかつ走っている時もとにかく水をかける。ラグビーでもヒートガイドラインでウォータータイムの時に服を着替えたほうがいいと書いてある。その方が熱放散しやすい。ベタベタよりはもう一回着替えたほうがいい。自転車は走っていると風がくるので、しっかり水分を補給すれば自転車で熱中症は起こりにくい。ランは湿度が高いとせっかく水をかけても蒸発しない。むちゃくちゃ蒸し暑いときはとにかく熱伝導、氷とか冷たい水を含ませたスポンジを帽子や服の間に挟む。とにかく水や氷との直接の熱伝導でいかに発散させるか。4つの熱放散をいかに戦略的に行うか。これが大事。そしてこういう時は「やばいな」という信号を自分自身で知っておくこと。途中でも棄権する勇気を持つことが大事。走りながらの食事は難しい。普段から走りながら食事をし慣れてないと無理。どうしても走ると副交感神経の機能が低下するので消化、吸収しにくい。普段から、少しずつ練習中で少しずつ摂取する訓練をすること。塩タブレットはやむを得ず救護所で使う。僕は日常的には塩分補給は、塩タブレットは積極的には使いたくない。やむをえず救護所で使う。あまり日常的にはガンガン使いたくない。舞洲大会のエイジカテゴリーで、ラン救護所で塩タブレットを配ったらあきらかに熱中症が減った。トライアスロンでOS-1を全員に配れたら一番いいと思うが、コストの問題がある。本当はOS-1配ったら塩タブレット配らなくてもいい。ドーピングコントロールのある時は、塩タブは駄目。疑われる。だからエリート選手の大会では塩タブは使えない。だから、塩タブを使うのは限定される。僕自身、長時間動かなければならない時は塩タブよりは、味覚として塩味を感じたい。味覚は足りているか足りていないか、自身が知るうえでとても大切。塩タブではそれがわからない。となると、食べ物は食べ物。飲み物は飲み物。クエン酸も必要なので梅干しがいい。ポッカレモンと練梅。これに勝るものはない。サッカーやラグビーでの90分間試合やテニスの試合で2~3時間となると長い。やっぱり食事が大切。となると塩タブに頼るよりは試合前の食事でちゃんと補給すること。朝ごはんでちょっと塩辛いものを食べる。辛いから水分もしっかり摂る。やはり日本食がいい。ゆかりおむすびに梅干し入れて味噌汁、塩サケなど朝ごはんでしっかり塩分をとる。炭水化物、タンパク質、野菜でミネラルもとる。運動の2時間前にしっかり摂って、あとは15分おきに水分を摂りながら練習や試合に臨む。真夏の中でどうしても試合に臨まなくてはいけない時には、それが大事かなと。やっと今になって水分だけでは駄目で、塩分も摂らなくてはいけないと選手たちもわかってきて、自身やれるようになってきた。試合当日の朝食からちゃんと大事にしないといけない。運動前の食事は消化が良い、うどんなどの炭水化物、塩分がよい。今日は暑くなりそうだなって時は塩分を少し多めに摂る。試合、練習前の朝食抜きはもってのほか。あんがい朝食抜きの選手は多い。

佐光氏:
 朝ごはんはとっても大事。最近の高校生は朝食抜き習慣化され、それで夏休みとか朝9時から練習とかでも朝ごはん食べてこない。

笠次氏:
 生活習慣をきちんとして一日3食をちゃんと食べたら基礎代謝も上がる。コンディショニング、栄養、アンチドーピング、メンタル。この4つがメディカルで大切。

奈良県で指導者への医科学支援がやっとできるようになった。栄養とメンタルの指導要望が多いがアンチドーピングは現場からのリクエストがない。

佐光氏:
 メンタルを鍛えていかに試合で力を発揮できるか。野球でもメンタルトレーニングを取り入れている。合宿で初めて気が付くのが、朝まったく食べない子や食べられない子が多い。寝るのが遅いと朝食べられない。だから本当に生活習慣が大切。

笠次氏:
 昨年、運動に関連した低ナトリウム血症を防ぐためのカンファレンスで出された声明では、水分はのどが渇いてから飲めとしている。それで十分だと。昔は飲むな。10年ほど前はのどが渇く前に飲め。また、昨年からのどが渇いてから飲め。最新の知見に基づき常識は変わるが、本当にのどが渇いてからで間に合うのか。ボストンマラソンで水中毒の報告があった。低ナトリウム血症。低ナトリウム血症を防ぐにはのどが渇いてから飲む。ただしトライアスロンでは、のどが渇いてからでは遅い。少しずつ飲まないと、水分は胃では吸収されず腸で吸収される。胃から腸に行く時間がかかるからずっと動いていると、のどが渇いてから飲んだのでは遅い。飲みすぎには注意しないといけないが、自身の体調を考慮しつつ少しずつ補給することは大切。運動前の水分補給に関して、僕が大事にしているのは運動前の体重、まず朝体重を測る。一日単位の体重変動は、要は水分の変動。朝起き抜けの体重が減っている時は脱水の可能性があるので、意識して飲んだ方がいい。むちゃくちゃ増えている、むくんでいる時は調整する。単に練習前にコップ一杯飲んだらいいってもんではなく、朝の体重にもよる。走る前の水一杯は胃に滞留しない程度に飲む。胃の中に溜まると効果がない。自身の胃の調子も考慮する。胃の動きが悪いときは水分や塩分摂っても効果ない。2年前に富士山の弾丸登山、一日で上がって降りてくる、この弾丸登山が生体に与える影響を調査した。下山時、頭痛でロキソニン飲んだが、胃が動いてないから効かない。途中から周りの学生に気を取られて全然水分と摂らなくなった。何時間も無補給で、頭痛で慌てて水分摂っても遅かった。富士山登山、海外、特にアジア系の日本観光で富士山にまで登ってくる客、信じられないくらい軽装で非常識な人が多い。

笠次氏:
 のどが渇いた時、水分はどれくらい摂ればいいのか、ある医師の集まりで以下の質問を投げかけたところ、

① 水は飲まない方が良い

② 汗をかいた分より少し足らないくらい飲めば良い

③ 汗をかいた量よりも多く、充分な量を飲む方が良い

③の回答が一番多かったが、②が正答であると私は答えている。

1時間走って1キロ減るから1リットル飲めばいいと思っても絶対に飲めない。汗かいた分より多めに飲もうと思っても、とてもじゃないけど飲めない。運動前より運動後の方が、体重が増えているということ。普通はありえないが、マラソンではありうる。2002年のボストンマラソンのクリストファーの調査で、マラソン後体重が増えている選手がいたが、低ナトリウム血症のリスクが最も高かった。しかしこれは市民ランナーの場合。トップアスリートはこんなことはない。

高折氏:
 ところで、走る前よりも走った後の方が、体重が増えているなんて、走りながら、それだけ飲食して胃重くないですか。走りにくくないですか。

高折 和男関西ラグビー協会医務委員会総務部会長

高折 和男
関西ラグビー協会医務委員会総務部会長

笠次氏:
 登山するとき、山はとにかく遭難した時に備えて、とにかく食べるそうです。行動食と非常食と分けてもっていくこと。僕の考えとしたら運動強度が低ければ、糖質も脂肪も体脂肪もそんなに使わないと思っていた。でも登山の常識はとにかくハンガーノックにならぬようにとにかく食べる。そのほうが高山病になりにくいと。マラソンやトライアスロンで、低強度で超長距離の時には、いかに脂質を燃焼させるか。どうやって身体の脂肪をエネルギーに変えるかを意識する。糖分を摂り始めるのは水泳では摂れないから自転車に乗り始めて少し経ってから。個人差個体差はある。本当に摂らない、飲まない、食べない人は本当に食べない。いかに自身で自身の身体を知るか。

新井氏:
 昔は炭酸飲んで走るなんて考えられなかったが、今は運動しながらコーラ飲んで走っても平気。でもコーラは糖分の塊。走っているからいいけど普段はノンカロリーコーラ。コーラは依存性がある。

佐光氏
 某氏がそうだった。コーラ、コーラって。個人差ある。本当に僕は水と塩だけでいいという子もいれば、コーラ飲むと元気になれるという子もいる。でも結局は一番いいのはOS-1かな。後は麦茶。麦茶に塩を入れる。糖分だけを考えたらポカリスエットやアクエリアス。

笠次氏:
 吸収率がいいのはOS-1。組成としては一番いい。体重を計って、2キロ落ちていれば失った分2リットルの水と塩分、少し糖分を摂る。失った分だけを補う。OS-1は、あくまでも脱水症状になった人用で、普段はちゃんと食事をして、ドリンクは普通の水やお茶、スポーツドリンクでいいと思う。ただし、スポーツドリンクは芝の上では駄目だから。水を飲んだ上にちゃんと塩分と糖分を補給する。熱中症にはOS-1が一番。塩分が一番含まれている。5度~10度に冷やしておいた方が吸収率はよく、クーラーボックスで冷やす。凍らせる必要はない。凍らせて溶けたのをちびちびと飲むと温度が低すぎて吸収率が低下する。体温計は絶対に現場に持っていってほしい。クーリングに反応せずかつ、飲めなかったら即救急車を呼ぶしかない。飲めて、クーリングに反応したら対処できる。体温計で一番いいのはテルモのC231。防水で20秒くらいで測定できる。脇で計るから脇はクーリングしない。局所のクーリングはあまり効果が無いと、日本救急医学会が出している「熱中症」という書籍で、海外の教科書から引用し掲載している。氷嚢はあくまでも補助的なクーリングでスプレーと送風が一番。

ミストも良く、夏場の人工芝はむちゃくちゃ暑いので、ミストで濡らして扇風機。

今後、選手や指導者にどう指導していくかが課題。特に中学生以上の生徒。頑張ればっかりでは駄目。自分でもうこれは駄目や。と理解できかつ指導者に伝えること。

佐光氏
 今はフジッコの塩昆布、麦茶携帯。

中村氏:
 World RugbyのICIRのところでは、熱中症時、現場では冷やさないように書かれています。

ミストもぬるま湯の方がよいようです。予防には冷えたものでも体感的にも良かったのでしょうが、それでもICIRのOnline問題では軽度でも冷水をかけることが×になっています。

http://playerwelfare.worldrugby.org/?documentid=module&module=14&page=556

中村夫左央関西ラグビー協会医務委員会学術部会長・大阪府協会安全対策委員会委員長

中村夫左央
関西ラグビー協会医務委員会学術部会長・大阪府協会安全対策委員会委員長

笠次氏:
 熱中症時の対応の基本は「熱放散を如何に効率よく行うか」です。熱放散には・伝導・輻射・対流・蒸発の4つがあります。直接身体を冷却するのは伝導による熱放散を狙ったものです。

このとき、中途半端に冷やすと、末梢血管が収縮し、皮膚表面の血流量が低下するので、体表からの熱放散を効率よく行うことが出来なくなります。意識がしっかりして循環血流量が確保できている状況であれば、冷たい水をかけて少々末梢血管が収縮しても気持ちが良いし、すぐにまた末梢血管も開くと思います。脱水が進んでいる状況で循環血流量が少ないときには注意が必要であると思います。

上記の理論でいけば、ミストは常温で十分です。熱中症と診断すれば、重症度の如何にかかわらず、熱放散を如何に行うかを考えるべきかと思います。

高折氏:
 笠次先生の話は、OS-1が飲みやすくなったことなど色々と参考になることが多かったです。一方、トライアスロンは時計が動いた状態での水分補給となり、ラグビーの試合中ではトライ後とかレフリーがゲームを止めた時間帯での水分補給となるので量、水分の内容も今後ラグビー独自の検証が必要になってくるかと思います。また夏場の練習の際の水分補給の仕方などは、完全に休憩時間を入れるので、トライアスロンのレース中とは別の方法を構築していかなければなりません。最近では土のグラウンドばかりではなく、芝、人工芝など色々なケースがあるので、それぞれどうすればよいのかが一つの課題です。特に人工芝グラウンドでは真水しか飲めないので、夏場の練習ではグラウンドを離れてミネラル、エネルギーの補給ができる時間帯をもうけることも考慮に入れた方がよいと思います。

新井氏:
 
やはり言い尽くされていますが、暑熱順化と適切な水分摂取が重要と思います。

また、WBGTも現在簡単に測定できるので、測定器を購入しその日の状態を指導者や選手は感覚的だけでなく、科学的、客観的に知っておく事も大切と思います。 特に最近は5月頃からの急激な気温の上昇がみられるので、早めの暑熱順化も大切と思います。暑熱順化が出来ていない時期には練習メニューを考慮する必要もあると思います。また、中学生や高校生は定期試験明けの練習再開時は要注意と思います。

摂取する水分に関しては、現在、市販の様々なものがあり、味や飲みやすさの改良が加えられているので、これらをうまく利用すれば良いと思いますが、その中でも選手個人個人の好み等があるので、指導者側だけで用意するものだけではなく、出来れば個人個人で自分の好みの物を準備出来られるのであれば、可能な範囲で準備させればより良いと思います。また、摂取量に関しても、一人一人の体格が違うので、それぞれの選手個人に自分の必要な量を日頃から理解させておく事も大切と思います。その一つの方法として、面倒ですが練習や試合の前後の体重測定は、選手にも客観的に摂取量を理解させる手段としていいtoolかと思います。

佐光氏:
 熱中症に関しての知識をプレーヤー自身がどれほど理解するかが、今後の課題ではないでしょうか。30人以下の部員なら、当日のメディカルチェック表で練習前に選手の体調を知ることができるでしょうが、100人近い部員がいる部の指導者はなかなか難しいのではないでしょうか。

(それでも、下痢・体温のチェックだけは必要かと思いますが)ましてや、練習中の一人一人の行動なり、表情を観察することには限界があると思います。したがって中学生以上(できれば全ての選手の保護者)には熱中症に関する基本的な知識を持つ事は必要だと思います。

 ・熱中症の起こるメカニズム

 ・熱中症の症状

 ・水分・塩分摂取の必要性

 ・練習をリタイアする勇気・・・・・・等もちろん、今後も指導者への教育も必要かと思います。

外山氏:
 そろそろ時間ですので、まとめさせていただきます。

この座談会を始めて5年、この間、関西協会エリアでは熱中症の死亡事故は無く、今年もない事を祈念し、験を担いで今年も開催致しました。

われわれは、必要な正しい情報を皆さんに伝えることが大切ですが、管理する人にはネガティブな情報も含めて伝えて、守ってもらうように意識を広めることが大切です。一方、選手やコーチには、どのようにすれば暑熱環境下で良いパフォーマンスが出せるかという、ポジティブな方向での情報を提供することが大切であるということの確認。その具体的な内容として、本日示していただいたような、ドリンクや塩分の摂り方の工夫を具体的に示して、自分の体の状態を自分で把握して自己管理をできるようにしてもらうことが大切なのだろうということでした。

 救急車を呼ぶタイミングですが、少なくとも意識状態が悪く、水分摂取ができないとか嘔吐する場合は必須と思います。本日はありがとうございました。

文責:外山幸正