全国高校大会の笛を吹いた女性レフリー 神村英理さんに聞く

年末年始に開催された第102回全国高等学校ラグビーフットボール大会で、唯一の女性レフリーとして笛を吹いた神村英理さん。
大学時代から6年間世田谷レディースでプレーし、日本代表キャップ5を保有する元プレーヤーです。2014年に引退し、飛行機のパイロットをしながらレフリーとして活躍するに至るまでの経緯を伺いました。

女性レフリーの誕生

–レフリーを目指すことになったきっかけは?
神村 プレーヤーのとき、引退するときも興味がなかったのですが、コーチングはやってみたいなと。クラブチームに所属して活動している中でルールを勉強し、練習でレフリーをするようになりそれがきっかけとなりました。

–ラグビー中心から仕事中心の生活にシフトした後、レフリーをするなったのはなぜですか?
神村 社会人として仕事に向き合っていた中で飛行機のライセンスを取得する2年間、熊本にいました。せっかく熊本にいるのだから熊本の人と交流したいという思いがあり、そうなるとラグビーしか思いつかなくて。地域のラグビーチームに所属しました。そこで幼稚園児や小学生の子供たちのコーチをするうちにC級レフリーの資格を熊本県ラグビー協会で取りました。

–日本代表としての活動は?
神村 ジャパンになるのが夢で大学3年で候補、4年でキャップ対象のゲームに出て、その後に外れて終わりました。でも、その中でいろんな仲間ができて女子ラグビーで色々な可能性を見出しましたし、恩返しの意味もあって続けています。

–女性レフリーという立ち位置を、どのように見ていますか?
神村 レフリーの立場で女性ということをあまり意識はしていませんが、周りから見たら「女性がしているな」と思われているだろうなと。高校生の場合、日頃は先生がレフリーをすることが多いので女性がしていても先生と思って特に誰も気にしていない感じはしますが。お互いにリスペクトできるようにコミュニケーションを取っていく事が大事だと思います。女性であれ男性であれ、誰がやっても違和感がないようにレフリングしたいです。

–ハードルはありますか?
神村 体力的に持久力は男性と変わらないですが、スプリントや瞬間の加速は圧倒的に負けますね。でもそこで追いつけないと見えないし、周りからの信頼を得られません。そこが難しいなと思います。

高校大会をレフリングするということ

–全国高校大会のレフリングをしてみて、いかがでしたか?
神村 1回戦の青森山田VS明和県央の試合で笛を吹きました。留学生がノックオンをしてその後ボールを叩きつける行為を注意したのですが、ペナルティーに対しての態度でしたらイエローカードもありえたのですが、ノックオンで、ゲームが始まったばかりなので注意にとどめました。ゲームのマネジメントをすることは、選手とのコミュニケーションが大事ですし、そこが楽しいと思います。

–カテゴリが変わると、ゲームのマネジメントは変わりますか?
神村 伝えたいことは基本的には同じです。ただ注意すべきこともあります。上のカテゴリーでは1つのワードで理解してくれますが、高校生では具体的にこうしてほしいとか、また反則をよく知らないこともあるので適切に伝えたいことが伝わるように心がけています。それが良いコンテストに繋がったり、反則を未然に防げたらうれしいです。コミュニケーションをとって変わったら良いのですが、言っても変わらない時はどう対処するか、自分の引き出しの数がなくなってしまうときにどうするか。引き出しやアプローチの種類を増やし、もっとマネジメントできるようになりたいと思います。

–今までに大変だった試合は?
神村 レフリーは体力的、精神的にしんどく、数えきれないくらいあります(笑)男子を吹くことも多いですが、高校生のラグビーはとても展開が早くて、ボールを出してくるタイミングとか、どれだけトレーニングしてもかなわないなと思うところがあります。ランニングコースやゲームを予測することで補っていますが、それでも追いつけなくて見えないことがあります。

–思い出に残っている試合は?
神村 数としては多くないですが、コロナが落ち着いてやっと海外へ行けるようになったとき、最初に吹いた南アフリカVSナミビアの試合でしょうか。開始5分くらいにTMOの裁定で初めてレッドカードを出しました。たぶん一生忘れないだろうと思います。それ以来出していません(笑)

レフリーとしての今後

–ラグビーにしかない魅力は?
神村 ラグビーは本当にしんどいスポーツです。私も最初は痛くて怖かったですし、ボールを奪い合う場面で、なんて大人げないスポーツなんだと思いました(笑)しかし当たってもいい、何でもできるって考えたら本当に面白くて素晴らしいスポーツです。
怖くて逃げたくなったりすることもありますが、そういう気持ちに打ち勝ってプレーすることで得られる仲間は一生の仲間にもなります。その楽しさを伝えていきたいですね。

–レフリーを目指すことを迷っている女性がいれば、どのような言葉をかけますか?
神村 引退してコーチになるという流れはできていると思うのですが、体が動くうちはフィールドで選手と一緒に試合ができるのはレフリーだけです。その面白さを伝えたいです。引退する選手には是非レフリーを目指してもらいたいですね。

–レフリーとして、今後の目標は?
神村 直近の目標は大学Aリーグの試合を吹けるようになりたいです。そのためには関西パネルに入らないといけません。今はその一つ下のKDS(関西・デベロップメント・スコッド)という位置にいますので、大学BリーグやトップウェストBリーグを主に担当しています。
いずれは女子の世界レベルの試合が吹けたらと思っています。自分は選手としてはアジアまでだったので、世界のフィールドに立ってみたいですね。今年はアジアセブンスや南アでのレフリー交流に行かせてもらいました。そういうことにチャレンジできるよう、日々成長していきたいです。ありがとうございました。